■ 珈琲と肉まんと冬の空 ■








何気ない日曜日。意味もなく過ごす休日。
ただ今日は非常にいい天気だったので、外にでも出ようかということになった。
とはいっても、季節は冬。
滅法寒い2月。
日差しは暖かくも、吹く風は一際冷たい。
夜になれば指先まで凍りつき、耳はじんと痛くなる。
そんな中、ブラブラと歩きながら続く会話。
背の高い男は冷たい缶珈琲を傾けて中身を一気に飲み干した。
隣に歩く少年は熱い肉まんに齧り付く。
それから、会話を切って少年が。
「寒くないですか?」
「寒いよ」
じっと見つめる目は優しげで、男の本性はパッと見わからない。
しかし、少年は知っていた。
男が酷く意地の悪いことを。
だから、ほんの少しだけ目を伏せて顔を逸らせてやった。
ガコンと音がして(多分空き缶を屑箱に投げ入れたのだ)、チラリと目線を上げればニッコリと微笑む男と目が合った。
「暖かそうだね」
「暖かいですよ」
わざと目線を逸らせて。
「食べますか?」
「いや、いいよ。ありがとう」
「・・・」
やけに弾んだ男の声。
少年は残りの肉まんを口に放り込んだ。
肉まんは中身がほとんど残っていなかった。
「・・・手は繋ぎませんからね」
くしゃっと肉まんを包んであった紙を丸めて、少し零れた肉汁で汚れた手を舌で舐めた。
「どうして?」
「どうしてですか?」
「だって、寒いから」
「手袋持ってるくせに」
「冷え性なんだよ」
「カイロ買いましょうか?」
「いらないよ。だってすぐそこじゃないか」
無意味で下らないやりとり。
だって、どうしたってこの男の言ったとおりのことになるのだから。
何だってどうしてこうなのか。
男同士で手なんか繋いでたら酷く恥ずかしい。
それをどうしてわかってくれないのだ。
でも、そういうとこの男は決まって、好きだから。という。
好きだからって、世間体は気になるものじゃないのか。
あぁ、きっと僕が女でも人前で手を繋ぐことなんてできないんだろう。
少年は思った。
何かと不自由な男同士。
それでも、この男と一緒にいたいと思っている自分がいる。
男は自分から手を繋ごうとはしない。
少年が自分から手を繋ごうと思うまで。
それは、良く言えば少年の嫌がることはしないと言えたが。
悪く言えば、まぁ計算高いと言えた。
そうとわかってはいるのだが、結局折れてしまってこの男の言ったとおりになる。
そういえば、彼の友人も同じことを言ってたっけ。
出会った頃は知らなかった。
「どうするの?」
「だから・・繋ぎませんって・・」


「       」


紡がれた言葉。耳が赤くなってしまったのは寒さの所為か。
まったくしょうがない人だ。
周りは人通りが少しだけあったけれども。
少年はついと手を伸ばして小指に触れる。
男は少年のその手をグィと引っ張った。
「暖かい手」
「それはどうも・・・」
子供体温。小さな手。
肉まんで暖まった少年の手は男の大きな手にすっぽりと包まれた。
「陽が落ちてきたから、早く帰りましょう」
「お礼に夕飯は腕を振るうよ」
落ちかけた夕陽に影が長く伸びた。
大きな手の冷えた指先が温まる頃。
触れ合っている部分が酷く愛おしく思えて。
絡めた指を強く握って将は思った。



end





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対等である渋沢と将が好きです。それは渋沢相手でなくてもなんですけど。
結局文中に渋沢という名前は出ませんでしたが、好きなように取って下さい。
どうせ似非渋沢克朗なので・・(泣)
ちなみに途中囁いた言葉は・・・思い浮かばなかっただけです(オイ)
2002.02.16

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