■ Valentine Blues ■












二月といえば、恋する乙女の決戦の日。ヴァレンタイン。
我が日本では何の因果か、チョコレィトを好きな相手に贈る日となっているようで。
お菓子屋さんの巧みな罠に国中でハマっている様は割りと笑える。
義理でチョコを配る姿はお中元の如し。
あら今年もすみません。なんて。
しかしこの日が、乙女だけの日かと思えば、そうでもない。
お菓子と聞いてこの男が黙っているはずも無いのだ。
中学三年生にして料理が特技の渋沢克朗である。
「よし、こんなもんか」
指先についたココアパウダーを舐めとって、コーティングし終えたガトーショコラを冷蔵庫の中に入れる。
なかなか上出来だ。
これならあの子も満面の笑みを浮かべてくれるに違いない。
ヴァレンタインが待ち遠しい。
しかし、このガトーショコラのせいで大変な事態になるだなんて、彼はこの時微塵も思いはしなかったのである。


翌朝、そう乙女の・・否、恋する人間の決戦の日ヴァレンタインがやってきた。
この日は実に良く晴れた絶好のヴァレンタイン日和であった。
ヴァレンタインに日和が関係あればの話だが。
ともかく、晴れ上がった空に渋沢克朗は非常に気分が良かった。
今日は休日ではないが、部活が無い。
毎年この日になると武蔵森サッカー部は少女達の黄色い悲鳴で部活どころではなくなる。
それを見かねて(というよりも、どうにもできなくて)この日はある年から部活が休みになったのだった。
桜上水がどうかは知らない。
そんなことは彼にはどうでもよいことだ。
渋沢は授業が終わると早々に教室を出た。
チョコレィトを持った少女たちを軽く笑顔で受け流し寮へ戻る。
直接手渡されたものは全部その場でお断りして、ロッカーや靴箱に入っていた分はまた後日。
彼にはチョコレィトを貰うことよりも渡すことのほうが重要だった。
まさかこんな日が来るとは思いもしなかった。
自分のしていることのおかしさに思わず笑ってしまう。
しかし、決して嫌な気分ではなかった。
当たり前だ。
恋する乙女は強いというが、恋する少年も結構強いものなのだ。
苦笑しながら冷蔵庫を開けた。
が、しかし。
そこにガトーショコラはなかった。
彼は思い違いをしたかと思い首をひねる。
キッチンの冷蔵庫は大型のものが3つある。
その中の右端のものに入れたのだが。
だが、真ん中の冷蔵庫にも左端の冷蔵庫にもガトーショコラはなかった。
サッと血の気が引いてキッチン中を探し回った。
ない。
どこにもない。
影も形もない。
あぁ、どこへ行ったしまったのかガトーショコラよ。
その時、渋沢の脳裏に一人の男の顔が浮かび上がった。
その男は何度か自分の作ったケーキや料理をつまみ食いしたことのある前科持ちだ。
今回の犯人もおそらく・・・いや、絶対にあいつだ。
渋沢は確信すると怒りを露わにキッチンを飛び出した。
この時、彼がもう少し冷静であったなら、犯人討伐を後回しに出来たかもしれない。




一方その頃、つまみ食いの常習犯、藤代誠二は囲まれていた。
もちろん彼に恋する少女達にである。
各々手作りチョコやら市販のチョコやら綺麗にラッピングされた包みを持って、少女達は来るもの拒まない藤代をきゃあきゃあと取り囲んでいた。
お馬鹿とは言え、お調子者で人懐こい藤代はどの学年の少女からも人気があった。
その上、サッカー部のエースで顔もスタイルも良いとなれば、この人気も頷けるというものだ。
朝からチョコ責めの藤代は両手にすでにチョコを抱えており、それでも少しも嫌な顔をせず少女達からチョコレィトを受け取っていた。
「ありがとvオレ、チョコすっげ好きなんだ」
笑顔で受け取る姿は好感が持てる。
それが自分だけではなくてもだ。
しかし、そんな彼でも本命の子はいた。
そして彼は何故かその子からも貰えるという妙な自信があった。
実際欲しいのはその子からのたった一個のチョコレィトだが、くれるというものを付き返すほど彼はチョコレィトが嫌いでも、愛想が悪くもなかった。
どちらにも当てはまる先輩を一人知っているが、彼が今日どんな嫌な思いをしているかは藤代には預かり知らぬところだ。
とにかく、藤代は教室の中で少女達と談笑しながら楽しい放課後を過ごしていたわけだ。
この時までは。
突然、妙な殺気を感じ取り、藤代はビクッと体を竦ませた。
動物本来の勘とでもいうのだろうか。
冷や汗が垂れるのを感じながら、藤代は辺りを恐る恐る見回した。
いきなり黙ってしまった藤代に少女達は不思議そうに首をかしげた。
「どうかした?藤代君」
しかし、藤代にはそんな彼女の声も聞こえては居なかった。
ガラリ。とたいして大きくも無いはずの扉が開く音に心臓が飛び跳ねた。
「藤代、ちょっと話がある。今いいか?」
扉を開けたのはサッカー部キャプテン、渋沢克朗だった。
「きゃ、まさか・・もしかして告白!?」
ひそひそと小声で囁きあう少女達。
まさか。そんなことあるわけないでしょうに。
藤代は軽く突っ込みながら、引きつった顔で笑った。
「な、なんスか?今ちょっと・・・・」
「いいじゃない話くらい。ねぇ?」
「私達のことは気にしないでv」
違うんだ。彼女たちを気にするとか気にしないとかそういう問題じゃないんだ。
ここにいたいんだ。
そうすれば少し先延ばしにできるじゃないか。
人前で怒る様な人じゃない。
怒られるのは目に見えてる。
何に怒っているのか皆目検討も付かないが、彼は確実に怒っているのだ。
その事実はゆるぎない。
「な、なんでしょう・・・?」
ぐいぐいと少女達に廊下に押し出され藤代はハハと空笑いした。
見守る少女達。
「・・・藤代、お前冷蔵庫の中にあったケィキを知ってるな?」
「・・・はぃ?」
「寮のキッチンの右端の冷蔵庫に入ってたガトーショコラだ。知らないとは言わないよな?」
「え?・・あの、何のことだか・・・?」
藤代は身に覚えの無い話に戸惑った。
ガトーショコラ?寮の冷蔵庫?何一つ思い出せない。
いや、思い出せないも何も冷蔵庫には一昨日の晩から近づいてすらいない。
一体全体何のことだろう。
しかし、その戸惑いが渋沢には言い訳を考えているように見て取れた。
「そうか。やっぱりお前か・・・」
ニッコリ微笑む姿は菩薩のようだが、その瞳は阿修羅の如し。
藤代はそのままヒュっと声を詰まらせてしまった。
「あれはなぁ・・大切なモノだったんだよ。どうしてお前は目の前にあるものを何でもかんでも食べてしまうんだ。
それとも、何か?俺の恋路を邪魔するつもりか?」
「ちっ、違います!俺じゃないッス!ガトーショコラなんてオレ知らなっ・・・」
「ほぉ・・ガトーショコラだと良くわかったな?言ってもいないのに」
「い、言いましたよ!さっき言ったじゃないスか!自分の言ったこと覚えてて下さいよ!」
いくらなんでも横暴だ。
しかも、怒りに我を忘れてるから性質が悪い。
「ともかく、お前しか前科持ちがいないんだ。素直に認めろ」
「ち、違いますってばー!」
最高の笑顔で詰め寄られて、あまりの恐ろしさにやってもいないのに「うん」と言ってしまいそうだ。
誰か助けて!そう思った時。
まるで天の助けか。
偶然通りかかった三上が声をかけてきた。
「何やってんだお前ら?」
「み、三上先輩!」
「騒々しいと思ったらやっぱりお前か」
切れ長の瞳が藤代を呆れたように睨んだ。
「違いますよー!キャプテンがやってもいないのにオレを犯人にしようとするんですよ!」
「嘘をつけ!お前以外に考えられないんだ。日頃の行いを思い出してみろ」
三上の存在も忘れて言い争いそうになる。
普段なら、口喧嘩は三上と藤代の十八番だというのに。
「落ち着けよ。らしくねぇな。何があったんだよ」
「風祭(に渡す予定)のチョコを藤代が食ったんだ」
グッと奥歯を噛み締めて三上に訴えるように言う。
三上は彼の額に青筋が浮かんでいるのを見た気がした。
が、それを認識する前に藤代が渋沢の台詞に反応した。
「風祭!?それ風祭のチョコなんスか!?」
「そうだ。風祭の(為の)チョコだったんだよ」
「ゲー、何だよー、オレが欲しかったのにぃぃー」
「何でお前にやらにゃならんのだ」
藤代はすっかり勘違いしたようだ。
当然自分がもらえると思っていたものが既に人のものとは!
言い方が悪かったが乱心している渋沢はそれに気がつかない。
しかし、三上はそれらのことに気がついたようだった。
「なるほどね。まぁ、大体わかった。でも、その口ぶりからすると藤代が食ったわけじゃないんじゃねぇの?」
「み、三上センパーイv」
抱きついて感謝の意を表そうとした藤代を足蹴にするのを無視して、渋沢は眉間にしわを寄せた。
「じゃあ誰が・・・・三上・・お前」
殺気のこもった視線を向けられて三上は軽く肩を竦める。
「俺じゃねぇよ。俺が甘いもの嫌いだって知ってんだろうが」
「そうッスよ」
「だいたい、こいつを半殺しにしたところでなくなったモンが戻ってくるわけじゃねぇんだぜ」
藤代が珍しく三上を援護すると、それ以上に珍しいことに三上が藤代を助けるようなことを言う。
嵐でも来るんじゃなかろうか。
「・・なんだ。今日は随分藤代に甘いじゃないか。機嫌でもいいのか」
「まさかー?だって、今日は三上先輩の大っ嫌いなヴァレンタインですよー」
ケラケラと藤代が笑うと渋沢も興味を失ったようで。
「・・それもそうだな。それより三上、お前チョコはどうした?もらったんだろう」
「あぁ?もらってねぇよ」
「・・・・・」
大嫌いなチョコレィトを無愛想ながらも毎年律儀に貰っているのに、今年は本命がいるからだろうか?
しかし、考えを巡らせていると、三上自身がそれを中断させてきた。
「それより、どうすんだよ。もう陽が落ちかけてるぞ」
言われて見れば太陽はもう半分以上隠れてしまっていた。
辛うじて明かりが入っている窓から外を見上げると、一番星が空に輝いている。
「今からじゃ無理だな」
三上が呟くと渋沢は仕方が無いとため息をついた。
寮の食事の仕度がある為キッチンはもう使えない。
市販のものでも・・・
「いいさ。今年は諦めるよ」
「それがいいかもな。大体サッカー部のキャプテンが男にチョコレィトケーキをプレゼントしたなんてバレたら学校中大騒ぎだぜ」
「そうだな」
「何だよ。やけに物分りがいいじゃねぇか」
「いつもそうだよ」
「へぇ、そう」
薄暗い廊下を三人連れ立って歩く。
「キャプテーン、これ持つの手伝って下さいよー」
藤代が両手に抱えたチョコレィトの入った紙袋を引きずってくるので、さっきのお詫びの代わりに渋沢は紙袋を一つだけもってやることにした。
「甘い奴」
「お前ほどじゃないさ」
「?」



その日夕食も終わり、部屋でくつろいでいた三上は渋沢がコートを羽織っているのを見て怪訝そうに顔をしかめた。
「何やってんだ?」
「外出してくる」
「今からか?」
「そんなに驚くことでもないだろ」
確かに渋沢はそんなに寮則をとやかく言う方ではない。
むしろ、立場を利用している所があったから、三上も大手を振るって夜半外出しているのだが。
今日は別だ。
まだヴァレンタインは終わっていない。
恋敵がヴァレンタインの夜に外へ出るというのだから気にはなる。
「そういうわけだから、点呼頼むな」
「・・・・リョ−カイ」
こう言われては何も言えない。
ただでさえ三上は後ろめたい事があるのだから。
パタンと閉じた扉を見て、三上は胸焼けを起こした体をさすった。
「さすがにホールケーキは辛いわ」
昨夜キッチンで渋沢のガトーショコラを食べてしまったのは実は三上であった。
甘いものが嫌いな三上が何故・・・。
別に渋沢の恋路を邪魔したわけでは決して無い。
邪魔はしたいが、三上はそこまで姑息ではない。
ただ、その日三上は異常に腹が減っていた。
空腹で目が覚めてしまうほどに。
育ち盛りの中学三年生。
食欲は尽きない。
例えそれが大嫌いな甘いものであったとしても、だ。
三上はキッチンへ行くと冷蔵庫の中にあったガトーショコラを見つけた。
どうせ気の早い誰かが一日早くチョコを貰ったのだろう。
自分は最高学年だし、多少の横暴は許される。
これをここで食べてしまってもそんなに罰は当たらないだろう。
甘いものは大嫌いだが、空腹には代えられない。
それに全部食べるわけじゃないんだし。
そんな風に思ったのが運の尽き。
空腹の所為か、製作者の力量か、三上はそれをすべて食べてしまったのだ。
何だ、俺って結構甘いものもいけるんじゃないの?なんて思ってしまう。
これなら明日チョコを多少貰ってもいいかな・・・
そんなことを思いながら、最後の一欠けらを口に放り込んだ。
寝ぼけた頭でフォークを噛んだまま咀嚼する。
そう言えば、明日はヴァレンタインだから、渋沢がチョコを作るとか寝ぼけたこと言ってやがったっけ。
ふと過ぎった友人の顔。
その瞬間、三上は口に入れていたフォークをガシャンと落とした。
一気に目が覚めた。
やばい。
マジでやばい。
今、食べていたガトーショコラは渋沢の作ったものだ。
やけに美味しいのもそれなら頷ける。
三上は眩暈に倒れそうになるのを抑えて、普段の冷静さを取り戻した。
頭を必死に回転させ・・・そして、彼は証拠隠滅を謀った。
と、いうのが事の顛末だ。
放課後、そのまま藤代を犯人に祭り上げればよかったのにそうしなかったのは、三上が意外に藤代を気に入ってるからだろう。
ただのお人よしとも言えるが。
しかし、放課後のその時三上は致命的なミスを犯した。
知らないはずのチョコをケーキと断定してしまったのだ。
渋沢がそれに気がつかないはずもなく、間もなく彼は正義の名のもと復讐される運命にあった。
部屋の扉を閉めた渋沢が、「食い物の恨みは恐ろしい、ってね」と笑って(表面的にはそういう表現が適切と思われる)言ったのを三上は知らない。





まんまと寮を抜け出した渋沢は冷たい風にコートの前を掻き合わせた。
手袋を持ってきて大正解だ。
渋沢はそのまま駅に向かって歩き出した。
途中のコンビニでいい。チョコを一つ買っていこう。
電話もしなかったが、彼は家にいるだろうか。
月が良く出ている夜だった。
辺りには自分の足音しか聞こえない。
冷たい風に鳥も鳴かない。
しかし、すぐに静寂は破られた。
歩き出して間もなく、慌てたような足音が向かいから聞こえてくる。
影は小さくこちらに向かってくる。
後数メートルというところで人影の正体を知って渋沢は目を丸くした。
「風祭・・・」
「あ、あれ?渋沢先輩!」
驚いたように将は渋沢に駆け寄った。
「どうしたんだ、こんな夜遅くに」
「あ、すいません。でも、これ渡したくて」
スッと目の前に突き出された包み。
「ハッピィヴァレンタイン!」
満足そうな笑顔で将は渋沢にそれを渡した。
驚いたのは渋沢だ。
あげることしか考えていなかった。
まさかもらえるとは、微塵も考えていなかった。
「ありがとう・・・、もらえるなんて思ってなかった」
「男なのに変ですもんね」
悪びれた様子もなく、将は笑った。
「いや、本当は俺があげる予定だったんだけどね」
「え?」
「だって、ヴァレンタインは好きな人にプレゼントを贈る日だろ」
「・・えぇ」
「でも、ちょっとした手違いがあってね。君に贈る筈のガトーショコラがなくなってしまって・・・」
どうせならコンビニに寄ってから会えればよかったのに。
もう少し早く出るんだった。
渋沢が顔をしかめると、将は渋沢の手を取った。
「代わりに僕が貴方へプレゼントしたんだから、いいじゃないですか」
目一杯背伸びして将は渋沢に口付ける。
「ガトーショコラは残念だけど・・また今度食べさせてください。ね?」
あぁ、まったくこの子は自分の扱い方を心得ている。
渋沢は大人しく頷いた。
「そうだね。いつでも作るよ」
「はい」
お返しに軽くキスしてから場所を移動しようと歩き出した。
ポケットに手を突っ込むとコツンと手に何かが当たる。
ポケットの中に何かを入れた覚えは無い。
財布はジーパンのポケットだし、携帯電話は置いてきた。
「?」
不思議に思って取り出してみると、それはただのチョコレィトだった。
「あ、キットカット」
しかし、そのただのチョコレィトに将はパッと目を輝かせた。
「食べる?」
「いいんですか?僕、これ好きなんですよ」
「・・じゃあ、こんなんで悪いけど。ハッピーヴァレンタイン」
言って渋沢はそれを将に手渡した。
「ありがとうございます」
将は嬉しそうに受け取った。


場所を付近の公園に移して、渋沢は途中の自動販売機で買ったお茶を開けた。
ベンチに座ると冷たい風が二人に吹き付ける。
将はキットカットに噛り付いて、ふふと笑った。
「何?」
「いえ、これ知ってて出したのかと思って」
「キットカット?」
「そう。僕がこれ好きだって知ってたのかなって。知らずに用意してたんなら、すごい」
「・・・・」
自分は彼がキットカットが好きだということも知らなかったし、こんなものポケットに入れた覚えもない。
こんな事する奴で、コートの中に気づかれずこれを入れることのできる奴。
考えなくてもすぐにわかった。
三上の奴か・・・。
何故将がキットカットが好きだと知っていたのかは知らないが、どうせ意外に気の付くあいつのことだからどこぞで知って覚えていたのだろう。
なくなったガトーショコラのお詫びかもしれない。
どうやら自分が考えていた事とは違ったようだ。
邪魔をするためにガトーショコラを何処ぞへやってしまったのかと思ったが。
確かによく考えれば、そんなことができる様な男ではない。
ああ見えて人情の塊でできてる男なのだ。
自分とは大違い。
渋沢は三上に半分感謝した。
ついでに復讐も半分にしてやろうじゃないか。
何だ。今日は随分と寛容だ。
そりゃ、ヴァレンタインだもの。
恋人と少しでも過ごせたなら・・・しかも、幸せな時間が過ごせたなら、こんなに気分のいいことはない。
「君の好きなもの、わからないままにならなくてよかった。あいつに感謝しないとね」
「あいつ?」
「・・ヴァレンタインの神様のことだよ」
「何ですか?それ」
渋沢はそれには応えずおかしそうに笑った。
きっと今ごろ三上は部屋でくしゃみをしてるに違いない。


ガトーショコラはプレゼントできなかったけれど、彼の好きなものは知ることができた。
まぁ、終わりよければすべて良し。じゃないですか?




次の日三上は学校を休んだ。
原因不明の熱にうなされたのだ。
渋沢の看病によって一日で熱は下がったようだったが。
(自分で毒もっておいて、自分で治してくれるたぁね)
この程度ですんで良かったのだろうか。
あぁ、ブラッディヴァレンタインにならずに済んで良かった。
もしいるのならば、ヴァレンタインの神よありがとう。
鬼神から守ってくれて・・・
三上は熱にうなされながらそんなことを思った。








ちなみに藤代を取り巻いていた少女達は新真実発覚を学校中にばら撒いたらしい。

『渋沢克朗に恋人発覚。親友三上亮と後輩藤代誠二が横恋慕!?
                 武蔵森サッカー部の四角関係。風祭とは一体どんな娘なのか!』

なんていう校内新聞が出回ったそうで。



end








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本当はタイトルがブラッディヴァレンタインだった上に、藤代がまさに
ブラッディヴァレンタインになる予定だったんですが、やめました。
折角のオトメティックイベントですので(笑)
全体的には全員ヴァレンタインに舞い上がってたっつうことで。
2002.02.14

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