■ 雨はサラウンド ■










シトシト シトシト 


窓の外は雨。雲から絶え間なく水がこぼれ落ちている。

どんよりとした空。太陽が顔を覗かせることはない。

グラウンドは水浸し。将はサッカーが出来ない。


将は恨めしそうに外を覗き込んでため息を吐いた。

軽いため息はシンとした教室にあっさり染み込んで消える。

教室にはもう誰もいなかった。

皆帰ってしまったのだ。

将は何となく教室に残っている。

帰るタイミングを逃してしまったような気もするし、何故かまだ帰る気になれなかった。

ごつっと机に額を押しつけて、横目で濡れた窓を見つめる。

自分一人きりの教室は狭い閉鎖空間。まるでたった一人世界に残されたみたいだ。

閉ざされた狭い部屋。誰もいない。世界に一人きり。

雨は外界とこの部屋を遮断する。

柄にもなく意味もないのに切なくなってみたり。


「まだ帰らないのか?」


突然・・というよりまったく自然な感じで、薄暗い教室の中に見知った声が響いた。

少し驚いてドアへ目を向ける。


「・・・!?」


そこにいたのは・・・・


そこにいたのは渋沢克朗であった。

ありえない。

将は目を見開いて呆然とした。

驚きの余り声も出ない。

「傘がない?一緒に帰ろう」

「あの、何でここに・・・?」

「?あぁ、来る途中で水野に会ったんだ。まだ学校にいるっていうから」

「部活は・・・」

「休み」

にっこり笑うと渋沢はドアを閉めて将の机まで寄ってきた。

とても変な感じがする。

この人と学校の教室で会うなんて絶対にないことだと思ってたんだけど・・・

「不思議な感じがするね。風祭と教室にいるなんて」

「まさかここへ来るなんて思わなくて。びっくりしました」

「せっかく部活が休みなんだから、好きな子の顔みたいと思ったんだよ」

渋沢の言葉に将は頬を少し赤らめて、嬉しそうに微笑んだ。

それを見て渋沢も柔らかく微笑む。

「雨に感謝しないとな」

机に軽く腰掛けて将の顔を覗き込んだ。

その表情はさっきと変わって少し憂いを含んでいる。

「会いに来たら、迷惑だった?」

「そんなことありません!ただ・・・」

「ただ?」

「先輩が会いに来てくれたのは嬉しいけど、僕、雨ってあんまり好きじゃないです。キライではないけど・・・」

「サッカーできないから?」

「それもあるんですけど・・・独りぼっちになったみたいな気がして・・・悲しくなるから」

目をほんの少し伏せて将は降り続ける雨の音に耳を傾けた。

雨音以外は何も聞こえない。

薄暗い教室に自分さえも消えていくような気分だった。

「将」

「はい?」

ふい呼ばれて慌てて顔を上げると、影が降りてきた。

渋沢が座ったまま将の肩を支えにして、軽く唇を触れさせたのだ。

「何処に行くんだい?」

「え?」

離れた唇が睦言のように囁いて、渋沢の瞳が前髪が重なる位置で将を見つめた。

「一人で、何処に行くんだい?」

薄く微笑まれて、将は魅入られたように渋沢のその表情に釘付けになった。

「・・・行きません。何処にも」

「そう?俺を置いて何処かへ行ってしまうのかと思った」

「まさか」

「俺が側にいるのに、一人にならないで」

「どうしたらいい?」

「・・死ぬほど抱きしめて。強く」



カタンと椅子を鳴らして将は立ち上がる。

渋沢を強く抱きしめた。

机に座る彼はいつもより唇が近く感じられる。

真っ暗になった教室の中で、まるで密会のようなこの空間が心地よかった。

将は少しだけ雨が。好きになった。






サァサァサァサァ・・・・・

見回りをしていた教師に追い出され、下駄箱で靴を履き替えながら将は隣に立つ渋沢を見上げた。

「ところで、本当今日はどうしたんですか?」

「うん?言わなかったっけ?」

持ってきていた大きな傘を広げて渋沢は将の顔を覗き込む。

「いえ、それだけで来るの珍しいと思って」

「・・・本当に覚えてない?」

傘の中から手を差し伸べられて、将は渋沢の傘に飛び込んだ。

酷い雨の中窮屈な傘の中で渋沢の表情は見えない。

「え?」

聞き返すと立ち止まったので、自然と顔は渋沢を覗き込んでいた。


「今日。俺誕生日なんだけどね」


ニッコリ笑ってそう言った目は少しだけ怒っている。

将は体から血の気が引くのを感じた。

このところ忙しくてすっかり忘れていた。

誕生日・・・。

そう言えば、自分の誕生日の時は12時きっかりに電話が掛かってきたし、部活を休んでまでプレゼントを届けに来てくれた。

プレゼント?そんなもの買ってあったら苦労はない。

「ごご、ごめんなさっ・・!!」

雨だと言うことも忘れ、あまりに申し訳なくて飛び退くと渋沢は将を傘に戻す様子もなく・・・優しく微笑んだ。

「いいよ。この後空いてるだろう?」

「は、はい!」

「じゃあ、たっぷりプレゼントもらおうかな、家で」


次の日、将は学校を休む羽目になったとか。

ちなみに武蔵森ではサッカー部のキャプテンの失踪に大騒ぎだったらしい。











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いろいろ間違いが・・・。今年の29日は日曜日だから学校はないなぁとか。
台風が近付いてたからてっきり29日は雨だと思ってたら雨降らないなぁとか。
また別で生誕モノ書きたいと思います。
無理矢理書いたのでなんだかすごいヘボいです・・・
あ。いつもか。

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