■ 愛を補充 ■







今日は珍しく部活の休みが重なり、その上選抜の練習もない日だった。

渋沢は将の家を訪ねてきていた。

何処へ行くでもなく家で二人のんびり休日を過ごす。

これは毎度お決まりのパターンで、休みの重なった日はいつも将の家。

寮では落ち着かないのだと渋沢が言った為だ。(彼は単に邪魔されたくなかっただけだが)

それは以前、武蔵野森にいたことのある将にもよくわかったので、わざわざ寮に行こうと考えたこともない。

そして、それはこれからも変わらないのだろうと思う。

将は渋沢が来るまでに部屋の掃除をし、外に出る。

迎えに行ったついでに二人で買い物をし、昼食を二人で作る。

夕食は順番に腕を振るうのが決まりだ。

まるで新婚さんのようだと、渋沢は思った。

「まぁ、似たようなもんか」

週末婚ってやつかな(これはもう死語なんだろうか)

まぁ、そうそう会えるわけじゃないんだし、愛をたっぷり補充してかないと。

それに。

大勢のライバルから勝ち取った将の恋人のポジション。

どうせなら誰もが羨むほど甘い関係でいたいではないか。

指をくわえて砂でも吐いていろと思うのは、今まで邪魔されてきた恨み故だろう。

キッチンでパタパタと働いている将を眺めて渋沢は少し黒く笑った。



***


トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・



それは突然だった。

突然鳴らない電話などあるわけないのだが、ともかくそれは突然であった。

夕飯を食べ終えて、今は将と二人でうたた寝(将は熟睡)していたところだ。

こんなことで将は起きないが、せっかく二人でゆっくりしていたのに。

無粋な電話のコールに少しムッとして渋沢は立ち上がる。

そして鳴り響く電話に渋沢はあっさり受話器を取り上げた。

「はい。もしもし、風祭ですが」

いけしゃあしゃあと言ってみせると、受話器の向こう側から「げっ」とうめく声が聞こえた。

「三上か」

『なんでお前が出るんだよ』

「婿に入ったんだ」

言うと電話の向こうから引きつった笑い声が聞こえた。

『笑えねぇ冗談だな、渋沢』

「そりゃ悪かったな。こんな時間に何か用か?」

『てめぇになんざ用はねぇよ・・・と言いたいところだけどな。てめぇ、外出届け出し忘れただろう』

「・・・あぁ、そういえば、急いでいて忘れたかもしれないな」

『そういえばじゃねぇよ。門限守ってるならまだしも!』

「お前に言われたくないが・・・。」

『とにかく!今回は泊まりなしだ。早いとこ帰ってこい。消灯までに帰らねぇとさすがの俺でも誤魔化しきれねぇからな』

「・・・新婚なのをやっかんで嫌みな上司に突然日曜出勤させられるみたいだな」

『上司はお前だろ・・・』

少々うんざりして渋沢はすっかりソファで眠り込んでいる将を見つめた。

面倒な。少しくらいいいではないか。

寮則なんて破るためにあるようなものだ。

寮長の思うことではないが、本気でそう思った。

『ったく、わけのわかんねぇムカツク事言ってんじゃねぇよ!ったく、風祭出せっての』

「そっちのがわけがわからん」

『と・に・か・く!俺はこれ以上誤魔化しきれねぇからな!』

ガチャン!と電話を切られて、渋沢は一つため息をついた。

「・・ん・・先輩?・・電話してたんですか?」

眠そうに瞼を擦って将がソファに沈ませていた体を起こす。

どうやら起こしてしまったようだ。

「ん、あぁ。気にすることないよ。ちょっと天気予報聞いてただけだから」

「そうなんですか。・・・今日は先輩泊まっていけるんですか?」

開ききっていない瞳を向けられて、渋沢は少し・・そうほんの少しだけ考えた。

それから、すぐにこう答えた。

「もちろん、泊まってくよ」

彼はああ見えてとてもお人好しだ。

きっと、いや絶対あのポーカーフェイスを張り付かせて自分のアリバイ工作をしてくれるに違いない。

朝帰りはお互い様。仮がある分三上は絶対それを返してくれるのだから。

文句は相当言われるだろうが・・・。

将は渋沢の胸中など知るはずもなく、嬉しそうに微笑み返した。




「明日は晴れるよ。きっと」



渋沢は受話器を置いてにっこりと将に笑いかけた。











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連載もほったらかしで、突然書きたくなった渋将。
我が儘で、わけのわからない克朗さんになってしまったデス・・・

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